レジスタンス

職場のおじさん(53歳)と、女性の先輩ふたりと飲みにいきました。高級住宅街の真ん中にある個室の和食…。料理もおいしくて、雰囲気もよくて、そのあたりはとても良かったんだけど、あまり楽しい飲み会とはいえなかった。

そのおじさんは何でも知ってて可愛がってくれて、わたしはわりと好意を持っていたのだけれど、話せば話すほど「普通のおじさん」で…上手くいえないけれど、あまり人を神聖視してはだめだなと思った。

配膳に来る女性の顔を批評したり…「あの方は、顔があっちゃこっちゃに飛んでいる感じで、だめだね」とかなんとか。あと、過去の武勇伝!
「ぼくは夜の街に二億円はつぎ込んだかな。この腹は、二億円の腹だよ」とかなんとか言って、どれだけ繁華街で浮名を流して色んな女性と付き合ったか、などなどを語り続けてた。わたしが、ラスベガスに行くんです、カジノで儲けてもう会社には戻ってきません、と話したら、「昔だったら、その軍資金も出してあげれたけれどね。500万、1000万ぐらいは。」とか。
夜の街の女性が、「暑い」といったら、その次の日には30万のクーラーを買ってあげた。とか。昔は部下を20人ぐらい連れて飲みに行って、一晩数十万は飛んだかな。とか。
そのたびにわたしと先輩は、すごいですねーとかなんとか言ったんだけど……なんだか…。
暴走族のバイクに乗って、そこでケンカがおきてそれを諌めた話なんかは、どこの中二病ですか?っておもってしまった。そして、すごい〜〜とか言ってたら、なんか、時給貰ってもいいんじゃないかな…という気分にもなった。

わたし「もう遅いですけど、奥さんには連絡しないんですか?」
おじさん「いや。ぼくは、外で飲むとき、家に連絡したことは一回もないよ」
わたし「え?飲むことがわかっててもですか?」
おじさん「ないね。だからうちの奥さんは、必ずごはんを作って、待っているね。絶対にぼくより先には眠らないし。でもそれが当たり前でしょう」
わたし「残ったごはんは、どうするのですか?」
おじさん「ぼくは、残り物というものは、絶対に食べないから。だから、翌日の、奥さんのご飯になるね」

これは…色んな意味でカルチャーショック。外で食事することがわかってても、「敢えて」連絡しないで、奥さんに食事を作らせる…。なんというか、すごく、封建的な感じがして…。まあ各々の家庭のしきたりがあるだろうから、いいとか悪いとかの問題じゃないんだけど。

でも彼は、絶対に奥さんにお金の苦労はかけないし、一生、家の外のことからは守る、と言っていた。

うちの会社はかつて男尊女卑が根強くて、特に新人なんてホステス代わりに使われていたという歴史があるらしい。けど、それを地でいく人がいるとは…。
課の女性の顔を、「あれが好きな人は三割ぐらいかな」とか、色々批評したり…。

彼は最後に、「キボンヌちゃんぼくと手を繋ごう」といってわたしの手を握り、先輩に1万円を渡して「みんなを送っていってね」といって、帰っていきました。
ちょっと変わったところのあるひとで、一匹狼というか、反体制、批判的、レジスタンス…な感じで、そんなところに好意を抱いたりもしてた。で、同じような部分のあるわたしのことを、「あなたのロックンロールなところが好きだよ ぼくと同じぐらい要領がわるいね」と可愛がってくれて…でも、一皮剥けば、普通のおじさんだったな。女性が好きで、女性にもてたくて、というのが剥きだしだった…。