ピアノの森/一色まこと  1巻〜15巻

ピアノの森(15) (モーニング KC)

ピアノの森(15) (モーニング KC)

2008年文化庁メディア芸術祭漫画部門受賞作品。たぶん、10年ぐらい前(中学生ぐらい?)、何かの広告で見て、ずっと読みたいな〜と思っていて…でもその当時どこを探してもみつからなくて。そのうち忘れてしまったのだけれど、最近マンガ喫茶で発見して嬉しくて一気読みしました。

色街通りで育った一之瀬海(いちのせ・かい)と、ピアニストの父を持つ雨宮修平が、それぞれピアニストを目指して切磋琢磨するおはなし。なんとなくカイって『のだめカンタービレ』ののだめと重なるところがあります……野生児のように好きにピアノを弾いて、型どおりではないけれどすごい才能があって、「ただ、楽しくピアノを弾いてた」のが、優れた指導者とかライバルによって触発されてコンクールを目指すところとか…。

特筆すべき設定はカイの育った「森の端」という色街通り。修平曰く「恵まれた日本の暗部」らしいのだけれど、鉄道の高架下に飲み屋が立ち並んでいて、ヤクザやらチンピラやらが行きかってるところです。色町通りというよりは、昔の赤線みたいな感じなのかなぁ……いやわたしはこの目で赤線というものを見たことはないが…。
その飲み屋も、警察の摘発を恐れてて、かなり違法なモロ風俗営業をやってる。地方都市といえど今時こんな場所があるのかなあ…。

カイの母親のレイちゃんは、直接の描写はないけれどはっきりと客をとって生計を立てていることがわかります。飲み屋のおばさんが色々牛耳っていて(所謂、やり手婆ってやつなのかな)、「森の端の人間は森の端に金を入れるのがルール、森の端の人間は森の端のもの」という特殊な考え方が蔓延っています。カイも幼いながらに皿洗いなんかをこなして、皿を割ったらごはん抜き。まさに働かざるもの食うべからずの世界です。何よりびっくりしたのが、飲み屋の連中が言う、「カイもいずれは客をとるようになるんだからさ」「森の端の男はヤクザかチンピラになるしか道はないけど、お前みたいに綺麗だったら、楽して稼げるんだよ」との発言!!!!ええっ!!!飛びぬけて綺麗な顔で生まれたカイだからこそかもしれませんが、男娼って・・・。そして実際、レイちゃんの客であるおじさんに強姦されそうになります。あな恐ろしや。でもこういう環境だからこそカイのピアノの美しさが際立つわけで、絶対に必要な描写であるとも思います。

レイちゃんは、15歳でカイを生んだらしいので、カイが小学生のときでまだ二十代後半なんですよね……今で三十代前半ぐらいかな?カイもレイちゃんも、瞳にトーンが貼られていて、色素の薄そうな超美形として扱われています。飲み屋では稼ぎ頭っぽい。
だったら、レイちゃんはやり手婆に搾取されるよりも、森の端を出て、六本木やら歌舞伎町やら、あるいは吉原で生計を立てることもできるんじゃないのかなぁ…。森の端での生活はすごく貧しそうで、でも彼女みたいな容姿があれば、同じ仕事をするならもっと裕福にもなれるはずなんですよね。
でも、「海をみたことがない」なんて今時ありえないようなことを言ってしまうレイちゃんです。彼女は一回も森の端を出たことがなくて、「森の端以外では生きられない」のでしょう…悲しいけど。カイには、ピアニストとして成功して、レイちゃんを森の端から連れ出してほしいなあ…。

まだ連載中だそうで、続きが気になります。ちゃんと完結してくれますように!