花まんま/朱川湊人

花まんま

花まんま

花まんま (文春文庫)

花まんま (文春文庫)

学生のころハードカバーで読んだことがあったのですが、最近ブックオフで文庫を見つけたので、買ってしまいました。すっかり内容を忘れていたのですごく楽しめた…。装丁は、文庫のやつも可愛いけど、ハードカバー版のほうが情緒があって好きです。

昭和30〜40年代の大阪の下町を舞台に、当時小学生だった主人公たちが経験する不思議な話を描いた短編集です。不思議といっても、わたしは長野まゆみ系の、ほんとにどうしようもない不思議な話というのはあんまり好きではないのだけれど、この小説の不思議レベルは、あくまで主人公達が「これはおかしい」と認識した上でのちょっとした違和なので、あまり抵抗無く読めました。

昭和の大阪の下町と言うと、まず『じゃりん子チエ』のドヤ街が浮かんでくるのだけれど、そこまでいかなくても、あまり治安のよくない地域が舞台のようです。様々な人種が行きかう路地だからこそ、かなしくて、どこかいかがわしい、こういう物語が生まれるんだなぁ…と考えました。
全体的に救いのある、怖さの中にも温かみのある話が多いですが、少女の性の目覚めを隠喩的に描いた『妖精生物』は全く救いがない。あと、恐らく被差別部落問題を描いたのだと思われる『凍蝶』も、その後の主人公や、沖縄から売春のために売られてきたミワさんを想像すると忍びない気持ちになります…。ちなみにこの話、どうして主人公が差別されているのか、中学時代のわたしにはわからなかっただろうなぁ…いや高校時代もわからなかったかも。というのは、そういうあれこれがない地方に住んでいたので、かの問題も教科書で1,2行触れるだけなのです。それを読んだとしても、よもや現代まで続いている話だなんて全く思わなかったし、全然ピンときていなくて…。就職したときの研修で「差別をなくそう」というビデオを観て、それでも同じ支店の子たちは、そんなにピンときてないみたいだった。「こんなのほんとにあるの!?」ってびっくりしてた子もいた。それは幸せなことなのか、それとも…。だから、作中の東京から来たという主人公の同級生一家が、何も知らなくて…という箇所はすごく納得できました。


在日朝鮮人問題やら、赤線やら、どこかに社会問題提示的な意識も感じられながら、押し付けがましくなく、ノスタルジックな娯楽小説として読めます。6話ありながら、つまらない話がひとつもありませんでした。直木賞も納得!