不信のとき

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1967年に日経新聞に掲載されていたらしい…。時代を感じます。今までの日経の連載小説って、『愛の流刑地』『失楽園』もそうだし、いまの『甘辛上海』もそうだけれど、ちょっとインモラルなメロドラマ小説か、時代モノが多いんだなぁ…と思ってみていました。しかし、1967ってことは…昭和42年かぁ…。さすがに、会社には、リアルタイムで読んでいた人はいないな…。

妙に俯瞰的な語り口といい、主人公の身勝手さ、愛人の物分りの良さといい、どこか『失楽園』に似ているなーという感じがしました。『失楽園』では、閑職に追いやられた久木という男が、凛子という、美人で楚々としていて久木に何も求めない女を与えられる話なのだけれど、『不信のとき』の主人公・浅井も、青天の霹靂のように、ホステスのマチ子を与えられます。それからの不倫ライフも、極端な性描写の有無を除けば殆ど同じような感じ…(もちろん、失楽園の描写のほうがすごい!というかあれは殆どポルノだと思う!)。ただ、読者としては、凡庸な主人公に、なぜ、こんなに粋な愛人ができるの?というところがずっと引っかかってしまって、それが最後のどんでん返しに繋がっていくのが凄いと思った。

最後のオチ…つまり女性からの復讐の有無、その手ひどさで、『不信のとき』の作者は女性だよな、と改めて実感するのです。男性によって描かれた『失楽園』はどこか主人公の男が作者の分身のようで…有名なあのラストもその象徴じゃないかと思う。夢をみたまま美しく不倫は終わりを告げるのです。

しかし…これが40年前の日経に載ったのか〜と思うと感慨深いです。今はそれこそわたしのような小娘でも日経を読むけれど、当時の読者層はそこそこ社会的地位がある、まぁまともに働いている男性が大半だったでしょう…それこそ作中の浅井みたいな亭主関白も多かったはず…。馬鹿な小説だ、と一笑に付しても、でも、ちょっとぞっとするところはあるんじゃないかな…。

銀座のことやら赤線のことやら勉強できたし、有吉佐和子を読んだのは初めてだったのですが、楽しめる小説でした。