ガール/奥田英朗

ガール

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三十代のキャリア・ウーマン(この言葉ってもう死語なのかな)の日常を描いた短編集。
表題作ではないけれど、「ヒロくん」という章が一番印象的でした。大手デベロッパーに勤める聖子という女性が、課長に昇進したものの、年上の部下・今井と衝突する話。ヒロくんというのは聖子の夫なのだけれど、聖子より年収が低く、またそれを気にする気配もない、草食系男子の走りみたいな感じの人。
対して、今井は運動部出身の上下関係に厳しく男性優位の思考を持つタイプで、年下の女性が自分の上司になったのがとっても気に入らないらしい。聖子曰く今井はマッチョ*1らしいのだけれど、このマッチョという言葉がとても的確なのです!別にこれは体格だけを示した言葉だけではなく、体育会系というのか、上手くいえないけれど、そういったタイプの男性をうまくあらわしているというのか…。


「懐いてくれば可愛がるけど、そうじゃなければ無視、みたいな。(中略)要するに、可愛がるか、可愛がられるか、どっちかの関係しかないんですよ。あいつは一つ下だとか、上だとか、そんなことばっかり言ってるし」
そうか、フラットな人間関係を結べないタイプなのか。聖子は吐息を漏らした。夫の博樹とはまったく別だ。今井はマッチョなのだ。

聖子はなんとなくわかった。この男は、女房とホステスと部下しか女を知らない。そのいずれかには鷹揚に接し、守ってやるという姿勢を見せる。そして聖子や裕子のような、男の庇護を求めない女に対しては、ひたすら敵対心を燃やす。


…聖子のいうところの「マッチョ」だらけの会社にいるわたしは、なんだかすごく同感してしまいました。とにかく俺は男だー!!というのを前面に出すタイプが多くて、食事の場で後輩にお金を払わせるなんてもっての他。困っていて、助けを求めると、「俺が代わってやるよ」というタイプ。それはそれで、きっといいんだろうけれど、下手に出なかったり、数字の部分で張り合ってくるような女性にはめちゃくちゃ冷たい……そう、まさにマッチョ……。聖子の上司が、「そういうタイプはおだてて使うのも大事だぞ」なんて言っていたけれど、確かに、真っ向から向かったら、火に油を注ぐだけなんだろうな。


聖子は夫のヒロくんに給料やボーナスの仔細を話していないけれど、同じ課の先輩(35歳ぐらい?)が同じ事を言っているのをこないだ聞いてしまった。自分のほうが大分給料がいいから、夫にはとても話せない、と。だから、男の人はお金では選ばなかった、イケメンで一緒にいて楽しい人を選んだ、と言っていて、なるほどなぁと思ったのだけれど…。とにかく、ひとつの章に、「こんな人いる!!」というのが二つも三つもあって、改めてこの小説のリアリティに感心するのでありました。服装の描写も違和感がなかった!奥田英朗ってほんとにすごいな…。

*1:あとではてなキーワードを見てみたら、「振る舞いが男らしいが、男性中心的な考え方をする人物をフェミニストが揶揄する時に使用されるケースもある」らしい!知らなかった。